自営業というか、自分のところで商売を始める前は、働けば働くほど商売がうまく行くと思っていて、そんなことを固く信じていた根拠はなにかっていうと、落語だったんだなあといまさら気づいた。

『芝浜』で、心を入れ替えた魚屋はたしか3年ばかしで身代を築き、若い衆の2、3人くらいを雇えるようになった、というはずで、そういうのを前知識として持っていたから、ああ商売なんてそういうもんだろうなあなんてかなりラクに考えていたけれど、実際はナカナカそうもいかない。

これはやってみて気づいたことなのだが、働かないとお銭(あし)にならないというのは当たり前なのだが、働いてもお銭にならないということがある。商売の質として、省こうとしても省くことのできない無駄が多いのだろう。

午後10時に帰ってきてそれから夕飯を食べて、もう気力なし。ニュースがいろいろと流れているけれど、すべて自分と無関係のように感じる。実際に無関係なんだろうけれど。

ネット上で過激に天下国家を論じている連中って、基本的にヒマなんだろうなあと思う。適度にメシが食えて、適度に(もしかしたら過度に)時間があって、ネットができる環境にあって、そうなると、日本が、とか、世界が、とか言い出すのかもしれない。私みたいに自分の頭の上のハエも追えない人間たちは、せいぜい手が届く範囲、足の伸ばせる範囲くらいのことしか考えられないんじゃないか。



なんていう愚痴をひとりごちてシャワーを浴びていると、だ。「きょうは10時まで仕事しちゃったよ」という思いが、段々と「あれ、まだ10時か?」という疑問に変わっていった。

飲食でバイトをしていた頃なんて、10時なんて一番のピークで、よっしゃこれからまだまだ行くぜって気合を入れ直しているくらいの時間だ。その時間にいまの私は、「もうだめ、へとへと~」と想像上で自分をゼリーみたいに溶かしている。溶けたゼリーの私は排水口に吸い込まれ、カビだらけのパイプ管をつたって、やがて川へと吐き出され、小さなあぶくがポコポコと言っているのを聞きながら、浮き輪に尻を入れて浮かんでいるときのように、ゆっくりと回転しながら、雲に霞んだ月を見上げていた。