あまり好きではないパーソナリティのラジオを珍しく聴いていたら、例の新幹線焼身自殺事件のことをしゃべっていて、聞き手役の元女性アナが、「ネットではJRの人たちの対応を絶讃している人たちが多いみたいですよ」と言っていた。

そのヘッドラインはたぶんどこかで見ている。その文字の並びを見て、「ふうん」としか思わなかったので詳細を確認しなかったが(ほとんどの場合、確認しないけれど)、その内容とは別に、仮にもラジオの喋り手が、「ネットでは……」みたいな話をするなよ、と思った。
「ネットの声」を知りたけりゃ、ネットを開くよ。ラジオを聴いているのは、出演者の考えを聴きたいからであって、そんなところで「ネットでは」みたいな情報はまったく要らない。どころか、そんなふうに「ネットの声」を情報のソースにしていれば、いづれみんなラジオを聴かなくなってしまうだろう。放送に携わる人間としては実に愚かしい行為だ。

だいたい、「ネットの声」ってなんだよ。
どうでもいい記事ほどよく「ネットの声」を紹介しているけれど、どういう基準で選んでる? ツイッターだったらキーワードかハッシュタグで検索? 他のSNSでも同じようなことはたぶんできるだろう。ブログはちょっとレスポンスが遅すぎるからもう見向きもされないかもね。
で、僕の中では、たとえばツイッターなんかでなにかについてオープンに意見を述べている人って特殊だと思っている。「特殊」というのは、マジョリティーではない、という程度の意味。
僕の住んでいる人口二百人弱のムラで、ネット上で閲覧するだけではなく、なにかについて意見発信をしている人なんて、多く見積もっても五人もいないだろうと思う。めちゃくちゃマイノリティーの世界。
過疎地域だから年齢構成もいびつなのかもしれないが、控えめに言っても、ネットを利用している世代って、やっぱり若い人たちが中心。
しかも。
いま、試しに「新幹線 焼身自殺」のキーワードでツイッター内を検索してみた。「ネタ」にしているやつ、自己アピールの材料にしているやつ、これを機にマスコミ批判をしているやつ、これを機に韓国批判をするやつ、陰謀論者、などが出てきたのだが、これってふつう?
僕からすると、この人生でその実物に一度も会ったことのないような気持ちの悪い連中にしか思えないんだけど、これを「ネットの声」というのなら、「それほど世の中には多数いらっしゃらない方々の意見」と言い換えたほうがよっぽどいいように思う(まあ、それも「観測範囲の違い」の問題ではあるのだが)。
けれども、なにも確認せずに批難するのはよくない、と「JRの対応を絶讃」というツイッターまとめを見てみると……アニメアイコン多し! うーん、つらい。あまりにもつらいんで、もう読まなくていいやって思った。

カネのかかっていない情報ってそれほど価値がないと思っている。このブログもそうだけど、事実を詳細に調べて書いたりすることなんてまったくなく、いつも適当(だからって「間違ってるぞ、おまえ!」と批判されたら、「うっせえ、ただで読ませてやってんだから文句いうなアホ!」くらいは思うのだが、けれどもオトナとしては「あ、はい」で済ませる)。「ネットの声」ってのはせいぜいその程度で、発言者の周りの人間がたのしむ(ここは重要)だけならいざしらず、それを「多数の意見の代表」のようにとらえるのは、どう考えたって間違っている。
また、「こういう意見もあるよ」のサンプルとして採り上げるのであれば、どういう基準で採り上げたのかが問題になるわけで、そりゃ世のなか探せば「奇を衒う意見」なんて山ほど見つかるし、ネットでは目立ちたがり屋が多いためにその傾向も強いだろう。
一方、テレビ、ラジオ、新聞なんていうのは、建前上、取材して裏付けをしてから報道しているのであって、もちろん個々のメディアの編集方針や取材レベルの高低なんかもあるだろうけれど、いちおう商売だからねえ。裏付けもなしに憶測を述べるだけの「ツイート」とはわけが違うでしょ。
こう書くと、ツイッターのヘビーユーザーなら、「いや、ツイッターには専門家のアカウントだってある! 正しい情報はツイッターにこそある!」みたいなことを言う人もいるんだろうが、僕は「あ、そうですか」くらいにしか思わないや。事実をただ伝えるという原始的な利用法ならともかく、意見を述べるのには適していない「140字制限」という枠組みに順応しようとする姿勢って、結局は自分の商売の広報部門の努力にしか見えない。承認欲求を得たいだけのアマチュアとは違うんだから、ほんとうに伝えたいことがあるのなら、連続ツイートなんかを利用しないでしょ? 学者が論文のパラグラフをすべて140字以内に制限する? 作家が一文をすべて140字以内に収める? 僕からすると、言いたいことをみんな川柳にしてしゃべっているみたいで、マジメな話題であればあるほど見ていて恥ずかしい。
十年ほど経って、ツイッターが誰も使っていない状況になっても熱心にツイートしている専門家があったら、僕もマジメにとらえるけど、たいていの専門家たちは、ただ、いま盛り上がっているからツイッターを利用しているだけでしょ。違うツールが流行ったら、みんなそっちに大量移入しておしまいですよ。

とまあ、そんなふわふわした情報を、放送分野のどまんなかにいる人間(「元」とはいえアナウンサー)がうっかり言及するなんて、なんてシロウトみたいなんだ!と腹が立ったわけだ。
その人、今回だけでなく、そういうのがわりと多くて聴くたびに気になっていたんだけど、自分ではまったく気づいていなくて、どころか、「ちょっと情報に早くアクセスしているわたしってすごい」くらいに思っているんじゃなかろうか。うーん、これまただいぶつらい。