狭量である。河や海を挟んで陸と陸を結ぶほうじゃなくて、料簡が狭いほうである。
であるからして、なんたらとかいう落語のアニメが始まったなどと聞いて、すぐに首筋と顳顬(むずかしー)に青筋が走った。
ふーん、と知らないふりをしてのんべんだらりと過ごしていたが、このあいだふと車で四十分ほど走らせて最寄りの書店に行ったとき、第一巻の最初の部分だけちらりと読めるようになっている小冊子があったので、ふーん、となにげないふりをしてそれをぱらぱらとやってみたのだが。

けっ。なんじゃい、こりゃ。落語をつかったコスプレだと思った。しかも、女性作家によるものだからか、みんな線の細い色男風な人に見えてしまって、別の料簡で売り込もうとしているんじゃないかとも思った。そういう意味でもコスプレじゃん。
はじめの部分だけだったので、そりゃ読み方としては邪道だし、読んだとも言えない。だからタイトルは書かない。けれども、こういうのって、なんというかバカにしてるんじゃない?
そもそも、古谷三敏のマンガ『寄席芸人伝』も大嫌いなんだよなあ。あの人って、『レモンハート』とかもそうだけど、けっきょくカタログ的エピソードの列挙ばかりで情の部分が薄っぺらいんだよな。

かつて一度だけちらっと観た落語のドラマで、「通な客」役らしき尾美としのりが客席にのこのことやってきて、噺家のマクラを聴いて「お、明烏だね」みたいに言うシーンだったんだけど、この数十秒だけでもう観るのをやめた。
八代目の文楽はいつも判を押したように同じ芸をする人でマクラもたいてい一緒。「弁慶と小町はバカだ、なァ嬶」っていう始まりだと、100パーセント『明烏』なわけで、ちょっとした落語の本とか読むと、文楽の最後の高座とかのエピソードとともに紹介されているわけよ、そんなもん。
尾美の話に戻って、もしかしたらマクラじゃなくて本編に入っていたのかもしれないけど、それでも客席で題名を口に出すなんて、なんて野暮ったいんだろ、と思った。野暮ったさの表現としてやっているのなら我が意を得たりだけど、どうも粋だと思わせる演出のようだった。そこしか観てないから事実はわからんけどね。

かように、落語ってエピソードがたっぷりあるから、物語にしやすい部分がものすごくあって、それだからこそその部分をつかわないでストーリーをつくれよって思うんだけど、えてしてオマージュとかパロディとかいう隠れ蓑をまとって、『芝浜』の現代版、とか、『らくだ』の翻案、みたいなことをしちまうんだよ。そういうの、おじさん飽き飽きしてるの。いま冬だけど。

それと。
このあいだ、志ん生を面白いと書いている同年輩くらいの人がいて、本気で「どこが?」と訊きたくなった。
これは、意地悪ではなくて、本気の本気。どこを面白いと思うのか、がほんと気になる。僕も二十数枚音源を聴いているけれど、ひどいのになると登場人物名が途中でめちゃくちゃになったり、武士が途中で町人言葉をしゃべりだしたりして、息子の馬生や志ん朝なんかと較べてしまうとひどいなっていうのが率直な感想。
けれども、何度も何度も聴いているうちに、『富久』の久七(だっけ?)が火事の中を走っていくところとか、『火焔太鼓』でおやっさんが急いで家に帰ってきてかみさんにえばるところとか、かみさんが腰抜かすところとか、『うなぎの幇間』でのたいこもちのぼやきとか、そういう部分に愛嬌を感じるようになったのだけれど、けれども、小林信彦がどこかで書いていた、「そもそも昭和36年の巨人の祝勝会で倒れてからの志ん生はだめだという人がいる」なんていう証言は、ぞぞぞっとする内容だよな。いやあ、志ん生は名人だよなんて36年以前の音源に当たるか、あるいは実物を観ていたって人じゃないと軽々と口には出せないよな、ってのが僕のなかにはあって、だからこそ、志ん生を面白いと言うには、なかなか勇気が要ると思っているんだけど、あらためてここで質問しますが、「それじゃあ、あなたの志ん生の面白いっていう部分を教えてください」

あと、このあいだ、初心者なんだけど談志が面白いと書いている人がいて、本気で「どこが?」と訊きたくなった……以下同。
いや、いちゃもんつけじゃなくて、ほんとうに訊きたいわけだ。たのしみ方っていろいろあるもんだから、そのたのしみ方をおれにも教えてくれよ、と。談志のあのイヤーな(とくに晩年の)マクラをたっぷり聞かされたあとの高座を、初心者がどうたのしめたのか、と。「9.11のテロで飛行機がビルに飛び込んで行ったのを見て、あれほどスカッとしたことは久しくなかったねえ」なんていうマクラもあったなあ。
そういう人物の、たとえば『芝浜』みたいな人情噺を演っていてもちっとも心に響かないし、もともと談志の熱演気味の人情噺は――しかも無粋なエクスキューズを途中で入れるから二重に――つまらなく感じてしまうんだけど。いや、『らくだ』とか『五貫裁き』みたいな噺はらしくて面白いんだけどね。

まあ、コスプレとかじゃなくて、落語の新たな面白さ・たのしみ方を教えてもらいたいな、と本当に思っているところであります。
あと、どうでもいいけどナルトを忍者マンガだと思っている人、せめて白土三平のなにかを読もうよ。読んだらナルトがコスプレだってわかるよ。