率直に言って原作ファンは、「あーあ、主役を選ぶところまではよかったのに……」と嘆息をつきつづけた全八回だったのではないか、と感じたのはNHKの土曜時代ドラマ『みをつくし料理帖』。
いやたしかに、ヒロインに黒木華が選ばれたと知ったときには「こりゃあいいドラマになるに違いない」と思い、そしてさらに脚本が藤本有紀になったと知ったときには「傑作の予感しかない!」と思ったのだが、まあ予感は予感で終わることもありますわな。
といって、すべてがだめだめドラマだったかというとそんなことはなく、よかったところを1行であらわすとすれば、
黒木華かわいい。森山未來かっこいい。音楽いい。

黒木華は、たぶん僕が観てきたなか(それほど観ていないけれど)ではじめて「かわいい」だけで終始するキャラクターを演じられたのではないか。今回のドラマは彼女のPVだと思ってよい。
ただ、うまいかって訊かれると判断しかねるってのが正直なところ。
「下がり眉」っぷりは原作どおりなのだが、怒ると愛染明王だか不動明王だかどっちか忘れたが、まあそれくらい眉を吊り上げて怒るのだ、という設定と演出とそして実際の演技がちょっと漫符的(=マンガ記号的)で、こういうところにこのドラマがいまいちピリッとしなかったところがよくあらわれていると思う。

森山未來の芝居はまともに観たのがセカチュー以来だけれど、ダンスをやっているせいか体幹がしっかりしていて、たとえばお稲荷さんの前で拝むところなどではピシッと一本筋の通った姿勢が美しく、「これぞ武士」という感じがしたものだ。人間、造作じゃないね。あまり顔立ちが整っていると思ったことはなかったけれど、第1話を観終えるまでにはすっかり好きになってしまい、かっこいいとさえ思えるようになった。そういう意味では、彼のPVでもあった。

あと、音楽が非常によい。特にメインテーマがすばらしく、当初は公式サイトのFAQにもサントラが出る予定はない、みたいなことが書かれていて、「NHKはあほか! 『64』と同じ轍をここでも踏むというのか!」と腹が立った記憶があるが、来月出ることになったらしい。
ほんとによかった。

で、悪かったところ・不満なところを以下に思いつくまま列挙すると、
  • 小日向文世の江戸弁がいかにもとってつけたようだった
  • ご寮さん(ごりょんさん)の安田成美の芝居がかなりくどく、おりょう役を演じた麻生祐未にさせればよかったのに、と思った
  • といって、おりょう役は麻生が適任と思えたので、いっそ一人二役にすれば画面上の面白さが得られたのではなかったか(名前も、「ごりょんさん」と「おりょうさん」で似ているし)
  • 源斉役の永山絢斗は最近NHKでやたらと起用されているように思うが、まったく期待に応えていないように思うし、すくなくとも源斉は棒読み過ぎて最悪だった
  • 絶世の美女ということになっているあさひ太夫(=野江ちゃん)を演じた成海璃子はかわいそうなくらいにミスキャストだった(雰囲気からして暗い)
  • 一話分の放映時間が三十数分しかないというのがそもそもおかしく、その大切な時間のなかでスタッフロールの最後に江戸料理研究家とかいう肩書の男が出てきてシラケる(そのエンディングで、澪が毎回現代風のキッチンでレシピを説明して料理していく、という趣向までは純粋にたのしめるのだが、本来裏方であるべき人間がひとこと言うためだけに登場する意味がまったくわからない)
  • 映像に凝っている部分もあったけれど、エキストラ(厳密には、セリフがひとつでもあればエキストラとは言わないのかな)がへたくそで、これまたシラけた
  • 好きな登場人物である清右衛門を木村祐一が演じていたのだが、まったく別のキャラクターとなっており、芸人としてあまり活躍しているようには見受けない彼の役者キャリアを重ねるために事務所が注力した配役だったのであろうが(根拠なし)、なんともなあ……とやるせない思いだった(ただ、後半になると、このドラマにはこのドラマなりの清右衛門がいる、と考えられるようになって、そうなると赦せないわけではなかった)
とまあ、完全に原作とは別物となっていた。
もしこのドラマを観て「おもしろい!」と思える人がいれば(藤本有紀の脚本がそれほどひどいというわけではなかったので、いてもおかしくはないと思う)、ぜひ原作に当たることをオススメする。100倍面白いよ。
時代劇は人気ないのかもしれないけれど、このドラマはほんとは朝ドラでやってほしかったんだよなあ。『あさが来た』みたいなコスプレドラマじゃなくて、きちんと丁寧に描く価値が充分にあったと思う。たぶん続篇はあると思うけれど、別物として観ることにする。つくづく、残念。


【2017.07.27 追記】
そうそう、森山未來の妹役を演じたのが、懐かしの佐藤めぐみで、これまた懐かしの『用心棒日月抄』の小田茜(坂上二郎のところの娘か孫娘)を思い出させるような溌剌とした可愛らしさを見せてくれた。藤本作品だからの起用ということもあったのかもしれないが(藤本女史は情に厚いところがあるように勝手に思っている)、NHKは『ちりとてちん』で重要な役を担った彼女をもっとつかうべし。