いやいや、これ、どこをどうたのしむのかがわからなかった。難しい、ということではなく、むしろ、易しすぎる。こんなわかりやすい、いかにもな戯画をいまさらどう読めるというのだ? 使い古された、既視感に満ち満ちたこの小説を?

ヒロインは、「変わった人物」ということになっている。それを説明する幼年時代のエピソードが始まって早々に列挙される。いわく、小鳥の死骸を拾い、それを母のところに持って行って焼き鳥にして食べようと提案したとか、男子の取っ組み合いの喧嘩を止めるために、スコップを持って来てその男子の頭を殴ったとか、ヒステリーを起こした女性教師を止めるためにスカートとパンツを下ろしたとか。これらについての周囲の反応(いわゆる「引いた」状態)をヒロインは理解できないらしく、何度も何度も「わからない」という表現が繰り返される。まるで、わかっていることを悟られたくないように。
また、現在進行形のエピソードとして、このような場面が出てくる。
赤ん坊が泣き始めている。妹が慌ててあやして静かにさせようとしている。
テーブルの上の、ケーキを半分にする時に使った小さなナイフを見ながら、静かにさせるだけでいいならとても簡単なのに、大変だなあと思った。

(文藝春秋社 55p)
これを読んでいたとき、メキシコマフィアの若い連中がこういうのを読んだらなんて言うのかなあという夢想をした。たぶん、こんなことを連中なら言うのではないか。

いやあ、まったくおまえはふつうだよ。ふつう。おれたちも似たようなもんだよ。鳥が死んで落ちていたら、そりゃあ喰うさ。喰うに決まっているじゃないか。というか、木にとまっているやつらも撃ち落として喰うよ。皆殺しだよ。あと、喧嘩もそうだ。スコップで頭をぶん殴って動きを止めるなんてのは日常茶飯事だよ。ときにはやりすぎてぶち殺してしまうこともあるけれど、まあしょうがないよな。女の教師がうるさかったんだって? 同情するよ。おれらなら、手の指を一本ずつナイフで落としてそれを口のなかに詰め込んでやるけどな。それでもうるさくできるんなら、してみろって言ってやるよ。あと、ガキがうるさかったのか。まあ窓から放り投げりゃ一発解決だよな。問題なんてすぐになくなるさ。おまえの周りの連中はおまえのことを不気味がっているみたいだけど、そりゃ間違いさ。間違ってるのはおまえたちだ、って言ってやりゃあいいのに。とことんまで、それをわからせてやりゃあいいのに。なんでそれをしない?

不思議ちゃん殺すのに刃物はいらぬ、「それふつーだよ」と言えばいい。
本書がどうしても稚拙に感じられたのは、ヒロインの奇矯さを、わざわざ他者の視線を介して説明させているところで、しかもそれがかなりの念の入りようで、変わった人間に見られないとよほど困るかのようだ。そうやって一所懸命つくりあげたカリカチュアライズされた世界は、しかし相当に脆弱で、「いやまあ、そういう人いるでしょ」くらいの感慨しか催さないのが辛い。この作品を好意的に解釈する例として、「制度化された社会において、生きづらさを抱えた現代人が自身をいびつに適応させていく様子が面白い」的な評価があるのじゃないかと思ったのだが、もしそういう称賛があるのだとしたら、それって相当に手垢にまみれた構図で、まさか2016年にもなってそんなクラシカルなものが評価されるはずがない、とワタクシ、相当に悩んでおりまして、この作品の裏の裏の裏みたいなところになにかがきっと隠されているのだろうか必死に考えているのだが、よくわからない。ひとつ思いついたのは、このような非常に安直な構造を持った小説が評価されてしまう、ということを以て現代日本文学界の批評力のなさを揶揄しているのかも、ってこと。そうじゃなければ、あまりにも記号化されたキャラクターたちの配置と行動に説明がつかない。これをもし本気で書いているのだとしたら。そして、これをもし本気で評価しているのだとしたら。それは、あまりにも非文学的な状況だと思う。

そもそも、コンビニというのがあまりにもわれわれに馴染みのある設定で、ちっとも新奇さをたのしめない。「いい年してコンビニでバイトしているなんて、やばくない?」みたいな言説というのはたしかに世間に多く実在するものであろうが、しかし同時に、就職氷河期世代の非正規雇用の問題、慢性的な人手不足、とくに都市部において顕著な晩婚化など、社会的な説明もまた人口に膾炙しており、最近はSNSによって個人的な情報発信もあり、世間の価値観はけっして画一化されていない、ということはわれわれのよく実感しているところだ。そういう現実を直視せず、机上の空論に近いような「世間」をつくりあげ、そこでの括弧つきの摩擦を苦にしている、みたいな設定で小説を一本書いてしまった、とこういう作者の疎さへのメタ視点からの自虐、というのが本書の真のテーマなんだろうか。やはり、ちょっと他に思いつかない。

この小説にまつわる話でいちばん笑ったのは、コンビニ業界で働いている弟の妻が、「ん? ベストセラーだって?」ということで買ってきて読んだということ。プルースト『失われた時を求めて』を読んだほどの読書家である彼女の感想は言わずもがな。