とはいえ、わからないでもない

2010年12月

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今日のグーグルのトップページ。




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「MMXI」は、ローマ数字でいうところの「2011」ということ。



ちなみに。

かつてボジョレーのマルセル・ラピエール(Marcel Lapierre)*1が2003年に作った「モルゴン(Morgon)」は、AOC の認証が取れなくてヴァン・ドゥ・ターブル(Vin de Table)扱い。VT はヴィンテージ表記できないので、それで苦肉の策として以下のような表記をした、という事例がある。




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「MMIII」ということで、「2003」というわけ。



*1:驚いたことに、[http://www.yomiuri.co.jp/gourmet/drink/wnews/20101013-OYT8T00453.htm:title=2010年10月10日に死去した]とのこと。享年六十。



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今日、外へ行ったついでに本屋に立ち寄り、森澄雄の『俳句への旅』というものを買った。

最初の方をちらちらと読んだらずいぶんとやさしく書いてある気がしたので、購入を決めた。俳句もちゃんと勉強をしないと、どこからどう見ていけばわからないためである。

その中で石田波郷の句が紹介されてあった。




雁や残るもの皆美しき  石田波郷




これには波郷自身の自注があるので、これも引用しておく。




昭和十八年九月二十三日召集令状来。雁のきのふの夕とわかちなし、夕映が昨日の如く美しかつた。何もかも急に美しく眺められた。それら悉くを残してゆかねばならぬのであつた。




ここに私が付け加えるべき言葉などない。なお、波郷は戦場から生還している。



ところで、上の句の「雁」をどうお読みになっただろうか。

「がんだれ(厂)」の「がん」だから*1そのまま「ガン」?

あるいは、ちょいと雅に「かり」?

私の場合は、すぐに「かりがね」かと思ったのだが、この『俳句への旅』中の少し前で、作者の




雁が音の羯鼓のごとき空に満ち*2




というのが紹介されていたので、「あ、『かりがね』って、今まで『雁』の一文字に対してそう読ませるかと思っていたけど、そうじゃなくて、雁の鳴き声のことを指すのだったか!」と考えを改めていたところなのだった。

結局、ネットで調べてみたら、「かりがね」とは、雁の鳴く声を指すこともあれば、そのまま雁を指すこともあるらしいということがわかった。

つまり、正解は「かりがね」。



今年も残すところ今日一日。

波郷が眼前のものすべてを美しく感じられたのは、そこに「これが最後の光景となるかもしれない」という思いがあったからに違いない。

情況はまったく異なるが、私たちが見る2010年も今日で最後ということになる。最後となれば、余裕を持った心であればそれは美しく映るに違いない。どうか、よいお年を。




俳句への旅 (角川ソフィア文庫)

俳句への旅 (角川ソフィア文庫)



*1:厂の「がんだれ」という呼称は、雁のガンから来ている。[http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8E%82%E9%83%A8:title=Wikipedia] によれば、昔は「雁」という字を「厂」と略したらしい。


*2:「羯鼓」は「かっこ」、空は「くう」と読むとのこと。「羯鼓」とは[http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%BE%AF%E9%BC%93:title=雅楽で使われる打楽器]のことだそう。



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ハイネケンのCF。







思わず見入ってしまう1分半。テンポがいい。

YouTube でこんなのもあった。







ダンスしている身体の部分なんかは合成かもしれないけど、なんか気持ちのいいCF。



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今日ラジオで、Bruno Mars の"Just The Way You Are"という曲が流れていた。今年ヒットしたようだ。




Just The Way You Are / Bruno Mars




うーん、初めて聴いた気がしない。というか、この曲が思い出される。




What's Up / 4 Non Blondes





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We are the World 25 for Haiti




"We are the World: 25 for Haiti" を聴いていたら、"There are people dying"という歌詞が耳に入り込んできたため驚いた。英語のリスニングなんてほとんどできないのだが、このセンテンスはマイケル・ジャクソンの"Heal the World"の中にもあるので、自然と聴き取れたのだろう。




Heal the World / Michael Jackson






We are the World



There comes a time

When we heed a certain call

When the world must come together as one

There are people dying

And it's time to lend a hand to life

The greatest gift of all






Heal the World



Heal the world

Make it a better place

For you and for me

And the entire human race

There are people dying

If you care enough for the living

Make a better place

For you and for me






私は、"Heal the World"の方はそれこそ何十回も耳にしていたので、この歌詞はなんとなく知っていた。反対に、"We are the World"という曲は、名前を知っていてもまともに聴いたことはなかった。

時代を追って考えると、"Heal the World"の詩の中に、"We are the World"の魂をもう一度込め直した、というところだろう。*1

私が、"Heal the World"の入っている"DANGEROUS"のアルバムを購入したのは、1994年あたりのことだが、それから約16年経ってから、マイケルの真意にやっと気づいたことになる。遅ぇ!



ついでに、"We are the World"のオリジナル版も。




We are the World / USA for Africa





*1:もちろん両方ともマイケル・ジャクソンの作詞。厳密に言えば、"We are the World"の方は、ライオネル・リッチーとの共作。



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清水哲男氏の『新・増殖する俳句歳時記』は読んでいて面白い。

で、詩人のご本人はどういう句を詠んでいるのかと検索をかけてみたら(検索がいろいろとできるのだ)、こういうのを見つけた。




弁当を分けぬ友情雲に鳥  清水哲男




本人の解説も感慨深い。




どこかに書いたことだが、もう一度書いておきたい。三十代の半ばころ、久しぶりに田舎の小学校の同窓会に出席した。にぎやかに飲んでいるうちに、隣りの男が低い声でぼそっと言った。「君の弁当ね……」と、ちょっと口ごもってから「見たんだよ、俺。イモが一つ、ごろんと入ってた」。はっとして、そいつの横顔をまじまじと見てしまった。彼は私から目をそらしたままで、つづけた。「あのときね、俺のをよっぽど分けてやろうかと思ったけど、でも、やめたんだ。そんなことしたら、君がどんな気持ちになるかと思ってね。……つまんないこと言って、ごめんな」。食料難の時代だった。私も含めて、農家の子供でも満足に弁当を持たせてもらえない子が、クラスに何人かいた。イモがごろんみたいな弁当は、私一人じゃなかったはずだ。当時の子供はみな弁当箱の蓋を立て、覆いかぶさるよにして、周囲から中身が見えないように食べたものである。粗末な弁当の子はそれを恥じ、そうでない子は逆に自分だけが良いものを食べることを恥じたのである。だから、弁当の時間はちっとも楽しくなく、むしろ重苦しかった。食欲が無いとか腹痛だとかと言って、さっさと校庭に出てしまう子もいた。私も、ときどきそうした。粗末な弁当どころか、食べるものを何も持ってこられなかったからだ。何人かで校庭に出て、お互いに弁当の無いことを知りながら、知らん顔をして鉄棒にぶら下がったりしていたっけ。そんなときに、北に帰る渡り鳥が雲に入っていった様子が見えていたのかもしれないが、実は知らない。でも、私の弁当のことを気遣ってくれた彼の友情を知ったときに、ふっと見えていたような気になったのである。『打つや太鼓』(2003)所収。(清水哲男




なお、氏は1938年(昭和13年)生まれ。

私の母(1950年生まれ)も、小学校の頃、弁当を持ってこられなかったときがあって、昼になれば校庭に行って時間を過ぎるのを待ったと言う。母曰く「うちはかなり貧しい方だったけど、それでもお弁当を持ってこられない子はほかにも何人かいた」。

日本はずっと貧しい国だったのだ。



……という記事を書いてさあ更新しようかと思っていたら、「ごきげんよう」という番組でタイムリーなトークが紹介されていた。今日は『ごきげんよう大賞』といって、年間のMVP を決定しようという特別番組になっていたのだが、その中で10月のMVP(結果、年間の特別賞にも) になっていた財津一郎の話を要約してみる。



終戦の年のこと。10歳だった財津は、母親が病気だったために、農家に行って母親の衣料と食糧を交換しに行った。

農家は、乾燥した小豆と大豆、それにじゃがいもを財津に渡した。財津は、小豆と大豆を前掛け(?)に、じゃがいもを背負ったリュックに入れて、帰った。

帰るさ、農村の悪ガキどもが彼を囲み、「町から食糧をあさりに来たのか」と詰る。その中の一番の上級生が、持っていた竹棒で彼を突っつき始め、それがどんどんとエスカレートしてついに財津は倒れてしまい、前掛け(?)に入れてあった雑穀類を全部泥道にぶちまけてしまう。

怒った財津は、竹棒を取り上げ、夢中で竹棒を地面に叩きつける。うわー、うわー、と唸り声を上げて。

気づくと、囲んでいた子供たちは蜘蛛の子を散らすようにいなくなっていた。財津は泥まみれになってしまった小豆と大豆を拾い、また前掛け(?)にしまった。

ふと、向こうの垣根からおばあちゃんが「こっちィ来い」と手招きをしている。行くと、「上がれ」と言われて家に上げられる。

「はい」とおとなしく囲炉裏の前で正座をしていると、そこには網があって、餅が焼かれている。

その頃、財津たちが見たことがあるのは「うるし餅(?)」という配給の餅*1だけだったが、そのときの餅は見たことがないほどに真っ白。生唾を飲んで見ていると、「食べろ」という仕草をするので、「ありがとうございます」と言って夢中で手に取る。

熱い。伸ばして引きちぎって食べようとするが、いい餅米を使っているのかいくらでも伸びて切れない。どんなに伸ばしても切れない。切れない。

そうやって伸ばしているうちに、財津はもうなんだかわからなくなってしまって、うわーんと泣き出してしまった。号泣。

そこでそのおばあさんが、「いいんだよ、お食べなさい」と言ってくれた。

家に帰り、背中に背負っていた重いリュックをどさっと畳に下ろしたら、またなんだか泣けてきて、大泣きした。

そうしたら、床に伏していた母親が「どうしたんだい? なにかあったのかい?」と寝返ったのだが、その目の脇から涙がすうーっと流れていた。



……という話。詳細は間違っているかもしれないが、このような内容だった。直接には関係ない話だが、これもなにかの縁だということで引用しておく。




打つや太鼓

打つや太鼓



*1:察するに、餅米100% ではない、ということだろう。



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うちの猫の近況だが、二匹とも去勢手術が無事済み、そのせいか少しだけおとなしくなった気がしている。

たしかに最近はめっきり寒くなったということもあると思うのだが、日中はずっとこたつの中で眠っていて不気味なほど。



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第1部 ミッションとリーダーシップ




第2章 イノベーションとリーダーシップ



  • イノベーションについて

    • 組織が成功しているときに危機は訪れるが、*1そのときこそイノベーションのチャンスである。

    • 変化は脅威ではなく、機会である。

    • 組織が新しい事業に着手したときは、その事業を、それまでの事業とは独立させなければならない。*2

    • イノベーションを成功させるのに必要なのは、変化を待つことではなく、変化に対して準備をしておくこと。つまり戦略が必要であり、戦略を立てられるリーダーが必要である。


  • リーダーシップについて

    • リーダーを選定するときに考慮するべき事項

      1. なにをしてきた人なのか

      2. その人の強みはなにか(いま組織のために行うべき重要なこととその「強み」が合致するか)

      3. その人は真摯であるか


    • リーダーの役割

      1. その役割はリーダー自身と適合しなければならない

      2. その役割はなされるべき課題と適合しなければならない

      3. その役割は寄せられる期待と適合しなければならない


    • リーダーに必要な能力

      1. 他人の言うことに対する姿勢(オープンであること)

      2. 自らの考えを理解してもらう意欲

      3. 言い訳をしない

      4. 自身より仕事を高いところに置く


    • リーダーの持つべきバランス感覚

      • 個別的な問題と全体的な問題

      • 短期的な問題と長期的な問題

      • 集中と多様化((多様な視点を確保しておかなければならない。)

      • 慎重さと迅速さ*3


    • リーダーがしてはならないこと

      • 人に相談せずに(理解してもらっていると誤解して)意思決定を行う

      • 組織内の個性を恐れる(従順な者ばかりを周りに置こうとする)

      • 後継者を自分ひとりで選ぶ(どうしても自分に似た人物を選んでしまう)

      • 手柄を独り占めし、部下のことを悪く言う







感想


以下のような言葉が印象に残っている。




リーダー用の性格や資質というものはない。もちろん、ある者が他の者よりもリーダーとして優れていることはある。しかしほとんどの場合、それは教わることはできなくても身につけることはできるというスキルの問題にすぎない。(中略)われわれのほとんどはリーダーのスキルを身につけることができる。

(p.21)






優れたリーダーは、「私」とはいわない。意識していわないのではない。「私」を考えないのである。いつも「われわれ」と考える。チームを考える。

(p.21)




全体的に、フェアであり、冷静な目を持ちながらも、なおかつ情熱的でアグレッシブでなければならない、というのが優れたリーダーの資質だと言っているように感じられた。

そんな人間がいるのか、という話になってしまいそうだが、ドラッカーいわく、リーダーは生まれながらの天分ではなく、自ら作り上げるものだということで、これは本人の努力次第ということになろう。

(営利組織ではなく)非営利組織ならではのリーダーの困難さということで、ドラッカーは




絶対的な判断基準はない。非営利組織では、多様な基準を考え、それらの組み合わせとバランスを考えなければならない。

(p.19)




と書いており、通常の組織よりも並はずれて優れた能力を持ったリーダーが必要だと結論づけている。

優れたリーダーが現れるには、あるいは、優れたリーダーであろうと志すには、立派なミッションが必要なのではないか、という気がする。きちんとしたミッションがあればこそ、優れた人は集まり、もしくは、優れた人物になろうと努力するのではないか。

それがただの美辞麗句だったり妄想虚言の類であれば、いづれメッキは剥がれて人は離れていき、やがてリーダーですら、自身とその行動に自信が持てなくなってしまうのであろう。ますます、ミッション(つまり組織の存在理由)が重要だと感じた。





*1:失敗しているときは、誰もが一所懸命に働かなければならないことを知っている。


*2:しかしその一方で、関連性を失わせないようにしなくてはならない。


*3:非営利組織では慎重になりすぎて失敗することが多い。



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さて、この年末で最も売れ行きのよい漫画はおそらくこれであろう。




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諫山創の『進撃の巨人』。*1




Introduction


もともとは宝島社の『このマンガがすごい! 2011』のオトコ編の第1位に輝いたということで、このひと月で一挙に話題になった、という観が(情報遅れの私としては)ある。アマゾンを調べてみると、第1巻が発行されたのは今年の3月ということになっているから、マニアな人たちはそのあたりから注目していたのかもしれない。しかし、「別冊少年マガジン」って店頭に並んでいるのすら見たことなかったな。たしかにデカイ本屋は、ここらにはないけどさ。





ある意味、ざわざわ……


いつものようにネタバレをしないように感想を書くつもりだが、まず、読者がページを開いて驚くことは、「巨人」の大きさよりも先に、その画力の低さに対してであろう。これはもう、致し方ないと言うほかない。

先日お会いした知人は、「書店でちらと立ち読みしたら、表紙も正直『あれ?』と思う絵だったけど、中を読んだらもっとひどかったんでびっくりした」と言っていた。

私は、3巻を一気に購入したクチで、期待に胸を躍らせながら1巻を開いたときのあの失望感といったら……。

やべ、失敗した!

素直にそう思った。

ところが、である。

そこを、ほんの少しだけ我慢すれば、道はぱっと開け、開いたと思った途端、物語世界にすぐに引き摺り込まれることは間違いない。そういう意味で、この漫画は福本伸行の漫画によく似ている。

一応知らない人のために、福本伸行とは、




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こういうのとか、




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こういうキャラクターを描いちゃう人である。

福本漫画は、はっきり言って、入り口がかなり狭い。かく言う私も、大学時代に『カイジ』の「限定ジャンケン」がちょうどざわざわと話題になり始めた頃、興味はあったのだが、どうしても絵が受けつけずに、しばらく「見」の態度を取っていた。

ところが、あるときたまたま『カイジ』を立ち読みしたら、その面白さに驚いた。なぜこんなに面白いのを今まで敬遠していたのか、と自責した。それからは、『天』、『アカギ』、『銀と金』と福本ワールドを読み進み、(数ある)福本漫画ファンの一人となった。「たまたまのきっかけ」がなければその面白さに出会えなかったということを痛感し、以後、絵柄でその作品を判断することは極力しないようにしている。

進撃の巨人』にも似たようなところがある。「下手」というよりは、「まだ洗練されていない」とか「発展途上中」と評した方がいいような画力の作家ではある。しかし、調べればまだ23歳じゃないか。『ワンピース』の尾田栄一郎だって23歳のときはたいした画力ではなかったような……。




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今よりは若い絵だけれども、既に読ませる風格はありました。*2

まあ冗談はさておき。まじめな話をすれば、この作者はヘンなところで迫力のある絵を描く。ちょっと岩明均(『寄生獣』『ヒストリエ』の作者)や松井優征(『ネウロ』の作者)っぽいというか。

そして、画力うんぬんより、どうか『進撃の巨人』の物語性を買ってほしい。絶望感、悲惨さ、理不尽さ、そして謎、謎、謎。





物語の偉大さ


そう。物語。これは少年漫画では久しく体験していなかったといっても過言ではなかろう。

たとえば、上で言及した『ワンピース』には物語があると言ってよい。未知のものがしっかりと示されていて、そこへ向かう緊張・恐怖・期待を主人公たちとともに、読者も体験できる。物語を読み進むということは、読者自身が不確かな道を切り開いていく、ということと同義なのだ。ひとつのシリーズが終わっても、未だに大きな謎は提示されたままで、そこへの伏線は回収されないまま、また別のシリーズに突入していく、ということをもう十年以上つづけている。荒木飛呂彦の『スティール・ボール・ラン』なども同じ。

それとは反対に、「ナルト」とか「ブリーチ」のように、もう入り口から出口までのルートがだいたいわかってしまっているものもある。ああなってこうなって、あそこらへんであいつが負けて、修行して強くなって帰ってきて、で、ここでこいつが死んでまた生き返って、で、今回謎が全部解決したから、新たに謎を作っておくか……と。

それが悪いという話ではない。そういう漫画にはそういう漫画の読み方というものがあり、たとえばキャラクターに注目して読んでいくとか、上達していく画力*3に力点を置いて読んでいくとか。

いわゆる「スポーツ漫画の名作」としてパッと思い浮かぶ『スラムダンク』とか『ピンポン』とか*4も、どちらかと言えば上述した部類に入るだろうし、私の中でも低い評価ではない。

だが、『進撃の巨人』の描く世界は、まずルールがよくわからない。たとえば、第1話から登場する「特殊型」とされる巨人の身長は、推定60m ということになっている。ふーん、60m かあ。

……え? ろ、60m?

なんせ、街を囲っている高さ50m の壁の上からぬうっと顔を出すような化け物が破壊活動を行うのだ。

ちょっと調べてみたら、高さ60m の建物ってこういうイメージ。以下の建物はすべて高さ60m 前後ということらしい。




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新横浜テックビルB館






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シティハイツ高輪






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ウエストレジデンス大崎






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ラ・プラース ウエスト




広角レンズで撮影されているので必要以上に高さが強調されている部分もあるとは思うが、間違いなくデカイということはわかる。この高さの生き物が自分を攻撃してくる、となったらどうだろうか。

この漫画は、まさにそういう部分から話が始まる。そして、主人公たちも、この巨人たちがどのような目的で人類を襲うかということはわかっていないのだ。*5

こんなに昂奮させてくれる初回って、少年漫画では本当にひさしぶりだ。



この漫画の凝っているところは、コミック中の回と回とのあいだに設けられた「現在公開可能な情報」にもあらわれている。

そこでは、「街が壁から突出している理由」や「立体機動時の体重移動装備」などが「公開」され、ストーリーを読み進めていく上での助けとなっている。こういう細かな設定(裏設定とも言えるような設定)の上に成り立っているからこそ、この漫画は奇妙なリアリティを有している。

たとえば、




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という、女の巨人がにやっと笑って登場するシーンが最初の頃に出てくるのだが、これを読んで「うわ、絵が下手くそ!」と通常は思ってしまう。「これ、女の身体か?」と。

しかし、そのあとにこのような記述が物語中に出てくる。




巨人の体の構造は他の生物と根本的に異なる…(中略)殆どが男性のような体つきである




これを読むと、「あれ? わざとああいう風に描いていたのか」と納得させられ、今度は逆に、「なぜ、巨人には性別がないのだろうか」ということに興味が湧く。

これは有名な話らしいが、作者は、




元々、『週刊少年ジャンプ』に持ち込んでいたが、2回の持ち込みの時に編集者から「「漫画」じゃなくて「ジャンプ」を持って来い」と言われたため、『マガジン』での連載を目指した。




ということらしい。Wikipedia にも記載されている。

上記編集者の言う「ジャンプ(=単純な漫画)」だったら、巨人は服を着ていて、男だけしか存在しなかっただろう。デッサンはちゃんと取れている反面、迫力が弱く、不気味さが希薄だったに違いない。

だが、作者の諫山はそういう巨人が描きたかったのではないのだろう、これ以上ないというくらいに気持ちの悪い巨人を描く。私の弟は、「人間の描き分けはあんまりなのに、巨人の描き分け力は異常」と評していたがまさにその通りだと思う。*6そして、その巨人たちには性別がないという設定にした。なぜだろうか。*7しかし、少なくとも読者はその部分に不思議なリアリティを感じる。

このマンガがスゴイのは、有無を言わせぬリアリティをともなった世界において、不気味で凶悪な巨人が理不尽に人類を襲うという状況を、独特な画風で表現しているところにある。リアリティがあるからといって単純なわけではけっしてなく、反対に、複雑で奇妙な世界が表現されていると言えよう。





「進撃」の意味するところ


そして、やっと第2巻の半ばあたりで、タイトルの意味がぼんやりとわかり始める。それまでは、「進撃の巨人」というよりは、「巨人の襲撃」というタイトルの方がふさわしく、主人公たちは防戦一方である。

ところが、上述した第2巻の半ばあたりで、大きな変化(ネタバレになってしまうので詳細については触れない)が訪れ、そして第3巻の終盤、物語中で「進撃」という単語が初めて用いられる。

進撃……辞書を引けば、




【進撃】―する 敵陣へ向かって、積極的に攻撃していくこと。「快―〔よい成績〕を続ける」→迎撃 (新明解国語辞典 第四版)




とある。

ここでやっと納得したタイトル。つまりこの「長い前フリ」は初めから作者の想定内だったというわけで、うーん、あっぱれ。

三巻を一気に購入した私なら単純に「すごい!」と言うだけの話だが、第1巻が出版された当初から追いかけてきた読者、いやもっと言えば、連載開始から「別冊少年マガジン」で追いかけてきた読者たちの「やっとわかった!」というカタルシスは尋常ではないだろう。



物語がこのタイトルの意味に辿りついたところで初めて、人類はスタートラインに立ったということになる。

回収されていない謎はまだまだあるし、それどころか初めより増えている始末。

巨人たちとはいったいなんなのか。主人公はいったい何者なのか。そして、人類はどうなってしまうのか。

このマンガがすごい!」の1位を獲ったことで、作者の感じるプレッシャーは相当に大きなものとなったかもしれないが、どうか焦らずに、じっくりとこのペースで物語を進めていってほしい。私たちが望むのは、安易なストーリーの収束や、見え見えの伏線、あるいは対象読者を絞ったキャラクターではないのだから。





「試し読み」をしてみよう


なお、第1話をウェブ上で試し読みできるようになっている。これを読んで「これは面白そう」と思えたなら、三巻を一気に大人買いしても大丈夫だろう。

進撃の巨人(1) (少年マガジンKC)

進撃の巨人(1) (少年マガジンKC)



進撃の巨人(2) (講談社コミックス)

進撃の巨人(2) (講談社コミックス)



進撃の巨人(3) (講談社コミックス)

進撃の巨人(3) (講談社コミックス)





*1:この画像は、「別冊少年マガジン」のサイト内に特設された[http://kc.kodansha.co.jp/SEP/04783/02/kyojin/:title=『進撃の巨人』ページ]にあって、このまま壁紙としてダウンロードできる。興味のある方はぜひ。私はさっそくラップトップPC の壁紙をこれにした。


*2:『ワンピース』第6巻より。アマゾンによれば1998年12月に出版されたことになっている。


*3:「ナルト」には(十年選手のくせに)画力の著しい成長は見られないが。


*4:巨人の星』とか『あしたのジョー』なども名作なのだろうが、あれらの作品は、「スポ根モノ」の基礎の基礎を作ったという印象がある。つまり、われわれ読者には、あれらの作品のストーリー展開が既に刷り込まれてあって、それを基本として「スポーツ漫画」の展開を考えているところがあるのではないか、と私は推測している。


*5:物語中、巨人が人間を襲う理由が推測されるが、それは第一話から数年が経ってから、という設定になっている。


*6:そのような意味においても、諫山の画力はこの物語になくてはならないものであり、「画力の稚拙さ」だけを対象にして単純に批判する人もいるのかもしれないが、個人的にはそれは少し的が外れているように思う。


*7:この問題に対しては、現在のところ、物語中でも解答は明かされていない。



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とある漫画について記事を書こうとしていたら長くなってしまいそうなので、分けることにした。

ということで、宝島社から出版された『このマンガがすごい! 2011』の第10位までのランキングを。*1




オトコ編

第 1位 『進撃の巨人』(諫山創

第 2位 『テルマエ・ロマエ』(ヤマザキマリ

第 3位 『さよならもいわずに』(上野顕太郎

第 4位 『ONE PIECE』(尾田栄一郎

第 5位 『鋼の錬金術師』(荒川弘

第 6位 『乙嫁語り』(森薫

第 7位 『ドリフターズ』(平野耕太

第 8位 『バクマン。』(大場つぐみ小畑健

第 9位 『アイアムアヒーロー』(花沢健)

第10位 『惡の華』(押見修造





オンナ編

第 1位 『HER』(ヤマシタトモコ

第 2位 『ドントクライ、ガール』(ヤマシタトモコ

第 3位 『海月姫』(東村アキコ

第 4位 『ちはやふる』(末次由紀

第 4位 『夏雪ランデブー』(河内遥)

第 6位 『大奥』(よしながふみ

第 7位 『ウツボラ』(中村明日美子

第 8位 『潔く柔く』(いくえみ綾

第 9位 『君に届け』(椎名軽穂

第10位 『町でうわさの天狗の子』(岩本ナオ






【関連記事】






このマンガがすごい! 2011

このマンガがすごい! 2011



こういう本って立ち読みするだけで、一回も購入したことないな。




進撃の巨人(1) (少年マガジンKC)

進撃の巨人(1) (少年マガジンKC)



詳しくは次の記事で。「別冊少年マガジン」から生まれた傑作。




テルマエ・ロマエ I (BEAM COMIX)

テルマエ・ロマエ I (BEAM COMIX)



マンガ大賞2010の大賞を受賞。立ち読みで一話だけ読んでみたが意外に面白かった。しかし、長くつづく物語性はないような……。




さよならもいわずに (ビームコミックス)

さよならもいわずに (ビームコミックス)



表紙がすごくいい感じで気になる。読んでみたい。




ONE PIECE 1 (ジャンプ・コミックス)

ONE PIECE 1 (ジャンプ・コミックス)



言わずと知れた「ジャンプ」の超弩級のエースです。




鋼の錬金術師 (1) (ガンガンコミックス)

鋼の錬金術師 (1) (ガンガンコミックス)



最近完結したようです。最初の一、二巻は見た気がする。




乙嫁語り 1巻 (BEAM COMIX)

乙嫁語り 1巻 (BEAM COMIX)



『エマ』の作者。いや、『エマ』読んだことないんですけど。




ドリフターズ 1巻 (ヤングキングコミックス)

ドリフターズ 1巻 (ヤングキングコミックス)



うーん、表紙の感じからして、当分はスルーしていてよさそう。




バクマン。 1 (ジャンプコミックス)

バクマン。 1 (ジャンプコミックス)



早く終わってほしい漫画。そろそろ漫画界からバッシングが起こっている、なんてこともちらほら。




アイアムアヒーロー 1 (ビッグコミックス)

アイアムアヒーロー 1 (ビッグコミックス)



最初のテンションはいったいどこに。もう立ち読みはやめました。




惡の華(1) (少年マガジンKC)

惡の華(1) (少年マガジンKC)



これも「別冊少年マガジン」に連載しているようだけど、表紙がスゴすぎて……レジに持って行けないだろ。実は2巻の表紙もスゴイ。




HER (Feelコミックス)

HER (Feelコミックス)



ドントクライ、ガール (ゼロコミックス)

ドントクライ、ガール (ゼロコミックス)



同じ作者が1位、2位を獲ったみたい。




海月姫(1) (講談社コミックスキス)

海月姫(1) (講談社コミックスキス)



マンガ大賞2010の候補作でもありました。ギャグ漫画?




ちはやふる (1) (Be・Loveコミックス)

ちはやふる (1) (Be・Loveコミックス)



マンガ大賞2009の大賞受賞作品。百人一首漫画なはず。




夏雪ランデブー 1 (Feelコミックス)

夏雪ランデブー 1 (Feelコミックス)



まあ読むことはないでしょう。




大奥 (第1巻) (JETS COMICS (4301))

大奥 (第1巻) (JETS COMICS (4301))



きのう何食べた?』が面白いから、よしながふみの作品は読んでみたいと思っている。今年は映画にもなっていたなあ。




ウツボラ(1) (F×COMICS) (F×comics)

ウツボラ(1) (F×COMICS) (F×comics)



これも……おそらく読まんだろうなあ。




潔く柔く 1 (マーガレットコミックス)

潔く柔く 1 (マーガレットコミックス)



読むきっかけが……ない。




君に届け 1 (マーガレットコミックス (4061))

君に届け 1 (マーガレットコミックス (4061))



しばらく読んでいない。最初の方は良かった。爽子と風早が付き合いだしてから、いまいち気乗りがしない。




町でうわさの天狗の子 1 (フラワーコミックスアルファ)

町でうわさの天狗の子 1 (フラワーコミックスアルファ)



1巻を読んでみたがヘンな雰囲気で面白かった。天狗って設定がいい。キャラクターもかわいく描けているけど、肝腎な女子の描きわけに疑問符が。




*1:これはとあるサイトから引用している。



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